ニューズレター vol.53 2025年11月号

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毎月発刊しているニューズレターの最新号を掲載しました。

こちらよりPDFで閲覧が可能です。修了生の体験談や施設の近況等、ぜひご一読ください。


体験談「かつてどのようで 何が起こり 今どのようか」 修了生S・Sさん

私が初めて「依存」に出会ったのは、高校生の頃でした。進学校で勉強に追われる毎日の
中、思うように成績が伸びず、自信をなくしていきました。そんな時に始めたダイエットが、
私にとって最初の依存の入り口でした。体重が減ることで得られる達成感。周囲が心配して
くれたことで、初めて「自分は透明人間ではないんだ」と感じられたのです。「痩せていな
いと価値がない」という思い込みは強まり、やがて拒食、そして過食嘔吐を繰り返すように
なりました。

社会人になると、不眠や仕事のプレッシャーから、アルコールや処方薬にも頼るようにな
りました。最初は眠るため、リラックスするためでしたが、いつしかそれがないと日常が成
り立たないほど依存が深まっていきました。休みの日は朝からお酒と薬に頼り、過食しては
吐く毎日。心も体もすり減り、「やめたい」と思っても自分ではどうにもできませんでした。
そんな現実から目を背けるように依存を重ね、思い描いていたキャリアも築けず、友人や家
族とも距離ができ、感情さえ鈍くなっていきました。

依存から離れようと、私はいくつもの方法を試しました。結婚して環境を変えたり、仕
事や住む場所を変えたり、子どもを授かることで自分が変われるのではと期待したことも
あります。でも、何を変えても変わらなかった。それは、変わらない「私自身」がいつもそ
こにいたからだと、後々AA につながって気づきました。

そんな中、私は一番大切な存在である子どもの親権を持つことができなくなりました。自
分の依存の問題で、大切な命を守れなかった。その事実を受け止めきれず、生きる目的も、
自分の価値も見失っていきました。「もうどうなってもいい」と思っていたある日、ふと心
に浮かんだのは、子どもの笑顔でした。「この子の成長を、シラフの私で見守りたい」「誇れ
るママでいたい」。そう思えたとき、ようやく「本当に変わりたい」という気持ちが芽生え
たのです。

3 年前に、私はAA につながりました。依存から抜け出すには、専門病院だけでは不十分
だと過去の経験から分かっていたからです。最初は不安と戸惑いもありましたが、同じよう
な経験を持つ仲間と出会い、「私だけじゃなかったんだ」と感じられたことは、私の大きな
支えになりました。仲間の話に耳を傾け、自分のことを話すうちに、少しずつ心の重さがほ
どけていきました。あれだけやめられなかったお酒から遠ざかることができたのは本当に
不思議でした。私にとって「ソーバーなママでいること」は、願いであると同時に、子ども
への責任であり、私自身の大切な権利でもあると今は感じています。

そしていま、より深く自分を見つめるため、RD で回復のプログラムを学んでいます。知
識として問題の本質が理解できても、自分の意志を手放すことは簡単ではありませんでし
た。再び処方薬を乱用してしまったとき、「バレなければ大丈夫」という昔からの心の癖が
出てきました。でも同時に、「ここで正直にならなければ、また同じことを繰り返す」と思
えたことが、大きな転機となりました。一人ではできなくても、仲間と一緒だから進める。
そんな経験を今も重ねています。

日々の生活の中で、私は子どもからたくさんのことを教わっています。「ママのご飯は、
世界一おいしいね!」と満面の笑みで言ってくれたとき、胸が熱くなり、涙がこぼれました。
その時に、食べることは、愛情であり、人と人とのつながりなのだと気づかされました。か
つては不快な感情を飲み込むために使っていた食べ物が、いまでは大切な人と「一緒に味わ
いたい」と思えるようになり、食べることや料理が好きだった自分の気持ちも、少しずつ戻
ってきています。

以前は悔し涙ばかりだった私が、いまでは人の優しさに触れて、嬉し涙を流せるようにな
りました。心がポカポカと温かくなり癒されるのは、依存物ではなく人とのつながりの中で
あると実感しています。子どもが「ママ、大大大大だーいすき!」とギュっと抱きしめてく
れることが、今の私の原動力です。うまくいかない日もあるけれど、「こんな私でも、まあ
いいか」と思える日が、少しずつ増えてきています。

私はこれからも、回復を続けていきます。過去の自分を責めるのではなく、今日一日を大
切に生きること。丁寧な食事をすること。自分を慈しむこと。大切な人や子どもとのかけが
えのない時間を守りながら、「私でよかった」と思える自分に、少しずつ近づいていきたい
と思っています。


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